Partager

28話 新しい名

last update Date de publication: 2026-07-01 06:54:30

目が覚める。今度はハッキリと認識出来た。

ここは病院だ。真っ白な天井、消毒薬の匂い……視線を横に向けると、そこにはタブレットを見ながら難しい顔をしている九条征哉が居た。

私がさっき、夢の中で見たあの九条征哉はどこにも居ない。

九条征哉はふと、顔を私の方へ向ける。私を見て、無表情のまま聞く。

「気分は?」

聞かれて私は九条征哉から視線を逸らし、言う。

「えぇ、だいぶ、良いわ」

実際に目が覚めてからは何だか頭の中がクリアになっているような気がする。

そしてこんなふうに病院に入れられたという事は、私の身体を隅々まで調べ上げただろうなと想像出来た。私の身体を隅々まで調べ上げたのなら、私の身体がどんな状態かはもう分かっているだろう。それはつまり、私がどんな手術を受けたのか、知っているという事だ。

恥ずかしいのか、苦しいのか、悔しいのか、悲しいのか。

自分の感情が分からない。

でもただ一つ、分かっている事がある。

それはそんな感情をこの男の前で出してはいけないという事だ。

「美緒」

呼ばれて九条征哉を見る。九条征哉は眉間に皺を寄せて言う。

「これからお前は定期的にここで点滴を受けろ。健康状態を維
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   48話 気晴らしの道具

    錠剤を手に入れた私はそれを持って、部屋を出る。廊下に居る人影。見ればそれは華瑛の部屋から出て来る真中芙美だった。あの部屋の中にあった秘密を暴いた、征哉様の優秀なスパイ。真中芙美は部屋を出て、私の元へと歩いて来る。互いに目配せをして、歩き出す。この屋敷の中で唯一の安全地帯へと向かう。屋敷の離れ。かつて美緒お嬢様が一人で生活していたお部屋があるのがこの離れだ。美緒お嬢様のお部屋は華瑛が何故か、片付けさせずに、美緒お嬢様が亡くなられた時と何も変わらずに物がまだそのままに置かれている。その部屋の更に奥、私が使っている執事室。そこに真中芙美と共にサッと入る。「何か……」そう聞きかけた私の言葉を遮り、真中芙美が軽く手を上げ、耳にもう片方の手を当てている。盗聴真中芙美は眉間に皺を寄せてしばらくの間、“何か”を聞いている。顔を上げた真中芙美は私に微笑む。「あの女、またとんでもない事を言い出したわ」そう言って笑う。「何を聞いた?」そう聞くと真中芙美が言う。「今度は美緒様の遺骨だそうよ」あの部屋の事はついさっき聞き及んだばかりだ。香織様の遺骨をあの部屋の更に奥、秘密の小部屋に保管している……しかもその骨は毒に侵されているという。それだけでも許しがたい行為なのに。「それで? あなたの方は?」そう聞かれて私はついさっき、拾上げた錠剤を見せる。「これは華瑛が恭介に飲ませている薬だ」真中芙美は胸元からサッと保管用のジッパーの袋を出し、その錠剤を袋の中に収める。「調べさせるわ」そう言いながらその袋を持ち上げ、中に入れた錠剤を見る。「これも……きっと毒よね……」そう言われて私は苦笑する。「そうだろうな」あの華瑛が一ノ瀬恭介の身体を純粋に心配している訳が無い。そこでクスっと真中芙美が笑う。「何だ?」聞くと真中芙美が言う。「華瑛よ、彼女ね」そう言って真中芙美が錠剤を胸元にしまいながら続ける。「和久井を気に入ったようなの」和久井直己、彼は征哉様が送り込んでくださった、精鋭の一人だ。私は敢えて、真中芙美を華瑛に付け、和久井は一ノ瀬恭介に付けるよう、配置したが。「和久井を気に入っている?」そう聞くと真中芙美が嘲笑に近い笑みを浮かべ、自分の耳を指差す。盗聴器から何か聞こえているようだ。「今、華瑛が愛人の木崎潤に美緒様の遺骨を取りに行くよ

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   47話 錠剤

    子供たちが和気あいあいと九条家の株価のニュースを話して楽しんでいるのを見て微笑む。そして私は早く自分の部屋の奥にあるあの小部屋へ行きたくてウズウズしている。一ノ瀬美緒を葬り去り、香織に捧げて……そこでハッとする。(そうだわ、香織の遺骨があるんだもの、香織だって実の娘の骨が傍にあった方がきっと嬉しいわよね)そう思い立つと、もうそれしか無いとさえ思える。私は子供たちが嬉しそうにしているのを見て微笑み、立ち上がる。「お母様?」瑛理香にそう聞かれる。私は微笑んで言う。「私はちょっと用事を思い出したわ」そう言って私は子供たちをその場に残して、リビングルームを出る。すぐに私に付いて一緒に出て来たのは私の愛人の木崎潤と、私に付くようになったメイドだ。廊下を歩き、夫の書斎の前を通り掛かり、足を止める。夫はここ数日、実の娘を亡くした悲しみで打ちひしがれている。私や瑛理香の前でやっと無理やり笑顔を見せるようにはなったけれど、それでもやはり実の娘を亡くしたのは相当にショックだったらしい。書斎の扉がほんの少し開いていて、中の様子が分かる。中の様子を窺うと、書斎のデスクの椅子に座り、手には写真を持っている。香織を亡くした時と同じように、今度は娘の美緒の写真を持って、その写真を見つめている。悲壮感を漂わせて。(白々しいのよね……今まであれ程、要らない子として美緒の事を扱っていたくせに)私がそう仕向けたのも原因の一つだけれど、それでも本当に愛していたら、私の言葉や瑛理香の言葉を鵜呑みにするような馬鹿な真似はしなかったでしょうに。それに。(あなたの実の娘は他にも居るでしょう?)瑛理香が一ノ瀬恭介の実の娘である事はまだ伝えていない。それでも予感ぐらいはあるだろう。(そうだわ、今こそ、その事実を夫に告げるべきよね)そう思い、私は書斎に入る。私が書斎に入って来た事で、夫は手に持っていた写真をデスクの引き出しにしまい、私を見る。「どうした?」そう聞かれて私は微笑みながら夫に近付く。「リビングで子供たちが九条の株価下落のニュースで盛り上がっているわ」そう言って微笑み、私は夫のすぐ横に立つ。夫は私を見上げて微笑み、言う。「そうか……次の手に出ないと、だな」そういう夫のデスクの引き出しに私は手を掛ける。「……華瑛?」夫にそう聞かれながらも私は引き出しを開く。そこに入

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   46話 華瑛の執着は

    とても毒のようには見えないその透明で綺麗なサファイヤブルーの液体。私が手を伸ばしてその試験管のような入れ物に触ろうとすると、九条征哉がその入れ物をスッと上に上げる。「ダメだ」そう言われて九条征哉を見る。「どうして?」そう聞くと九条征哉が言う。「猛毒だ。お前には触れさせない」猛毒と言いながら自分は普通に胸元のポケットからそれを出したのに、私に触れさせないなんて。「それはどこで?」そう聞くと九条征哉が言う。「一ノ瀬華瑛のあの施設からだ。破壊工作が進んでいたが、かろうじてこれ一本が残っていた……まぁ、無くても毒の名前が分かっていれば精製する事は可能だが」不気味な程に青いその液体を見ながら考える。一体、華瑛は何を思っていたのだろう。「それから」九条征哉が私の手元の書類をまた一枚、めくる。「一ノ瀬華瑛と美織の母・香織の関係性についてだが」めくられた書類に視線を落とす。「……学生時代の友達……」そう呟くと九条征哉が頷く。「あぁ、そうだ。七倉家は代々続く財閥家。比較的、歴史が浅い一ノ瀬家や三崎家とは格が違う」そう言われて私は九条征哉を見る。「四季凪のようね」そう言うと九条征哉が微笑んで頷く。「あぁ、そうだな」九条征哉は手に持っていた青の永久凍土をまた胸元にしまって、言う。「だが七倉は四季凪のように家名だけを残して絶える家では無かったがな」確かに七倉の家名は今もまだきちんと残っている。そこで私はハッとする。「じゃあ、今、私のお母様の遺骨が一ノ瀬華瑛のあの部屋にあるとするなら……」そう言うと九条征哉が頷く。「そうだ、七倉家はかなり怒り狂うだろうな」そう言われて考える。「どうやって華瑛はお母様の遺骨を手に入れたのかしら」(一ノ瀬家のお墓は郊外にある……納骨はちゃんとした筈……?)お母様が亡くなった時、私はまだ幼かったから、あまり記憶には無いのだけれど、それでもきちんと葬儀はしたし、納骨だってちゃんと済ませた覚えがある。「美織の母である香織が亡くなって、比較的すぐに華瑛は瑛理香を連れて一ノ瀬家に入っている。さすがに四十九日が過ぎるまでは我慢しただろうが、出入りを頻繁に出来るなら、骨壺ごとすり替えてしまえば問題は無いだろうな」そう言われて、あの小部屋の写真を見た私は妙にその言い分に納得してしまう。「学生時代からの友人

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   45話 血と毒

    買い物から戻って来た一ノ瀬華瑛と一ノ瀬瑛理香、そして木崎潤を迎える。たくさんの袋を木崎潤に持たせて屋敷に入って来た二人は満足気にリビングのソファーへと座る。「やっぱり、外は良いわね」一ノ瀬瑛理香がそう言う。「外に出て得られたものもあるし」そう言いながら鼻歌を歌っている一ノ瀬瑛理香を愛おし気に見つめる華瑛の、その瞳の奥にある狂気を私は既に知ってしまっている。あの部屋を見てしまったから。何と言うのか、この作られた感じは。「九条征哉の体調不良のニュースが駆け巡っていて、あっちでもこっちでも九条グループの行く末を心配している声が多くて」一ノ瀬瑛理香はそう言いながら華瑛を見ている。「今がチャンスなんじゃないかしら」一ノ瀬瑛理香が体を乗り出してそう言う。華瑛もそんな瑛理香を見て微笑む。「そうね、そうかもしれないわ」その時、リビングルームに入って来た人間が居た。瑛理香の婚約者になった高橋翔太だ。「瑛理香、九条グループの株価が下がってるぞ!」そう言いながら嬉々とした様子で瑛理香の隣に座る。この男は美織様の事を裏切り、裏で瑛理香と手を組んでいた悪辣な男だ。征哉様を嵌めた男でもある。眼光が鋭くならないよう、私は視線を下げる。◇◇◇その日の午後にはDNAの結果が出た。本来ならば結果が出るのは2,3日かかるが、そこは九条の力で急がせた。俺は手元に届いた結果を持って、美織の部屋に行く。「美織」呼びながら部屋に入る。美織は窓の外を眺めていた。俺はそんな美織に近付き、聞く。「何を見ている?」そう聞くと美織は空を見て言う。「鳥を眺めていたの」空を飛び回る自由な鳥を眺めていた、というのか。俺は美織を抱き寄せて聞く。「自由になりたいのか?」そう聞くと美織がクスっと笑う。「いいえ、私はあなたのものよ。それに」そう言って美織は俺を見上げる。「あなたなら空も飛ばせてくれるでしょう?」そう聞かれて俺も笑う。「あぁ、美織が望むなら、空だって手に入れてやるさ」美織はそんな俺に笑い、聞く。「それで?」聞かれて俺は手に持っている大きな封筒を見せる。「結果が出た」◇◇◇ソファーに座り、渡された大きな封筒を開ける。中に入っていた書類に目を通す。「まずは一ノ瀬家の血の流れだ」九条征哉がそう言う。「一ノ瀬恭介と一ノ瀬瑛理香の親子鑑定の結果は99.9

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   44話 青の永久凍土

    九条征哉が眉間に皺を寄せながら言う。「実はもう一つ、美織に話しておかなければならない事がある」そう言われて私は九条征哉を見る。「美織の母親である一ノ瀬香織の死に一ノ瀬華瑛が絡んでいる可能性がある事はさっき話した通りだ」九条征哉はそう言いながらタブレットを操作する。「一ノ瀬華瑛が所有している施設がある。調べたところ、一ノ瀬華瑛名義では無く、三崎華瑛名義での所有になっているが」そう言いながら九条征哉がタブレットに表示させたのは、私が入れられたあの施設から少し離れた別の山奥にある施設の写真……何だか倉庫のように見える。その施設の門の脇に名前が書かれている。「エンジェルスフォール……」天使が落ちる場所、そんなふうに感じてしまう。「この施設内を部下に確認させに行ったんだが、部下が入った時に大部分が破壊されてしまっていた……だが」そう言って九条征哉がタブレットを操作する。「その施設内から二つの毒が検出されている」タブレットに表示されていたのは検出された毒の名前。「一つはネペンテス、美織、お前に使われていた毒だ。そしてもう一つは……」表示された毒の名前。「シアン・ド・ペルマフロスト……?」そう聞きながら九条征哉を見る。九条征哉が頷く。「あぁ、そうだ。青の永久凍土と呼ばれる毒だ」青の永久凍土……そう聞いて、さっきの一ノ瀬華瑛の小部屋にあった、青い骨を思い出す。「この青の永久凍土っていう毒を摂取すると……」私がそこまで言うと九条征哉が言う。「骨が青く光る」(青く光る骨……)「今、一ノ瀬香織の死因を調べさせている」九条征哉がそう言う。お母様の死因……そう言えば私は聞いた事が無かった。病気だったとしか聞いていない。もし仮に一ノ瀬華瑛がお母様の死に関係していたとして。この青の永久凍土が使われたのは間違いないだろう。「青の永久凍土は自然発生的なものではないのよね?」そう聞くと九条征哉が首を振る。「有り得ない。合成しないと出来ない毒だ」(つまりこの毒はお母様の為に作られた……?)「一ノ瀬の家に送った者が入手した、その青い骨については、当然だが検査に回している」一ノ瀬家の暗部……見合いで出会った華瑛とお父様。華瑛はお父様に恋し、お父様はお母様と恋に落ちた。お父様とお母様は結婚し、華瑛は別の男と結婚して。お母様のお腹に私が宿った後にお

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   43話 骨壺

    目の前に広がった小部屋の全貌。私は思わず足を止めてしまう。三段ほどの階段を降り、広がった世界は異様なもの、としか言いようがない。私はスマホを取り出し、その小部屋全体の写真を撮る。部屋全体に見知らぬ女性の大小様々な写真が飾られ、部屋の壁際中央に祭壇があった。その横にはピンク色の大ぶりな花がぶら下がっている。エンジェルストランペットだ。エンジェルストランペットはその植物全体に毒を持っている。誤食すればせん妄や幻覚、意識障害を起こす、危険な花。甘い香りが鼻を突く。(大ぶりな花は嫌いなんじゃ無かったの?)そう思いながら私はその小部屋を写真に収めて行く。祭壇の一番上に大ぶりな瓶が置かれている……それはまるで骨壺のよう……。そう思ってハッとする。その骨壺のような瓶の横には壁に飾られている女性の遺影のような写真。どこか見覚えのある顔……。(考えるのは後よ! とにかく証拠を)そう思い直し、私は部屋を探る。部屋の壁の奥、作り付けられているクローゼットのようなもの。そこを開く。中には服やバッグ、宝飾品がきちんと収められている。その写真を撮りながら、私は感じる。(ここだけ時間が止まったように感じるわ)そしてふと目に留まった写真。そこに写っていたのは壁に飾られている女性と並んで笑顔で写っている若かりし日の一ノ瀬華瑛だ。笑顔で写る二人の女性。(一ノ瀬華瑛とこの女性の関係って一体……)そう思いながら全ての写真を撮り終えて、私はスマホをしまい、一番気になっていたあの大ぶりの瓶に触れる。蓋が付いている。蓋を開けるとやはり、と言いうべきか中には人骨が入っている。(やっぱり骨壺なのね)そう思って蓋を閉めようと思った時、私はその骨が異様に青く見えた事に違和感を覚えて、中に手を入れ欠片を取り出す。私の違和感は間違いでは無かった。骨が青く光っている。(こんな事って有り得るの?)私は素早くポケットからジッパー付きの保存袋を取り出し、骨の欠片の中でも目立たない、けれどしっかりした骨を瞬時に選定し、保存袋に収める。(こんな不気味な部屋、長居は無用だわ)そう思い、慎重に骨壺を元に戻す。触れたものは骨壺以外には無い。誰かがここに入ったと知られれば真っ先に疑われるのは自分だろう事は分かり切っている。だから慎重に、慎重に元の場所へ寸分の狂いも無く、それを戻し、部屋を出る。扉を閉

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   7話 消えた令嬢

    高橋翔太と瑛理香は元々、繋がっていて……一ノ瀬家の家名が欲しかった高橋翔太と、一ノ瀬家の令嬢という地位を自分だけのものにしたかった瑛理香が手を組んでいた……。高橋翔太と一ノ瀬瑛理香は笑いながら、私の墓石を足蹴にして、去って行く。しとしとと降る雨の中、私はまだ衝撃に体を動かせないでいた。不意に私は笑い出す。「フフ……」そう言う事だったのね……箒を握る手に力が入り、指の節が白くなる。私がどうしてあの夜の記憶を失くしたのか……それはあの二人が結託して私を嵌めたからだ。宿敵である九条征哉という男をも巻き込み、私に言い逃れが出来ないように写真を撮り……そして私のお腹の中に宿った子供でさえも、

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   6話 密偵

    及川との通話を切る。軽く溜息をつき、私は私の夫の元へ向かう。入るなと命じられている部屋に近付く。中からは嗚咽が聞こえる。私は静かに扉を開け、中に入る。部屋に入って来た私を見て、私の夫は視線を伏せる。私は夫に近付き、その肩を抱く。「火事は事故だったのよ……」慈愛を込めた声を装い、そう言う。「あの子の葬儀はもう手配しました。だから安心して、あなた」肩を抱いた私の手を握る、私の夫は泣き崩れている。「すまん……」夫はそう呟くように言って、肩を揺らす。私はそんな可哀想な夫を見つめながら、ほんの少し微笑む。部屋を出て、扉を閉めて。笑みが零れるのを我慢出来なかった。誰にも聞こえない声で

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   5話 業火と未練

    目の前で。オレンジの炎が燃え盛っている。夜空に映える炎のオレンジ色はその触手を天に伸ばし、更に炎自身が燃えるものを探している。炎の触手の先からは黒煙が立ち上り、夜空の星を覆い隠す。私を閉じ込めて、絶望の淵へ追いやった療養所という“檻”は、今はもう燃えながら歪み、崩れ落ち、灰と化して行く。「お嬢様」及川が私の横に立つ。「今この瞬間からお嬢様は灰になりました。もう一ノ瀬家の令嬢ではございません」全ては燃えて灰になった……私と一ノ瀬家の縁も、そして未練も全て燃えて灰になったのだ。思い出されるのは幼い頃の記憶――お母様が生きていた頃は……私もお父様に確実に愛されていた。お母様とお父様

  • 灰になった令嬢は宿敵の腕の中で牙を剥く   4話 絶叫

    及川は私を見つめ、頷く。「お嬢様、生き延びてください。それもあなたのお母様の最後の願いなのですから」そう言われて私はポロポロ落ちる涙を拭い、聞く。「私は、何をすれば?」及川が簡潔に言う。「時間がありません。今すぐにお嬢様のお召しになっている服とネックレスを外して頂けますか」及川はそう言って自分の足元にある遺体袋を見る。「この遺体にお嬢様の服を着せ、ネックレスをつけさせます。そうすればお嬢様は死んだ事になり、万が一にも生きている事が知られたとしても、その時にはお嬢様はここから遠い地へ離れている事でしょう」及川は私に紙袋を渡す。「着替えは中に」その紙袋を受け取る。漆黒のワン

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status